2008年1月8日火曜日

「海を飛ぶ夢」を観た

深夜のテレビで、スペインが舞台の、実話を基にしたという「海を飛ぶ夢」を観た。


この作品は、たしか公開時にも結構話題になってた記憶があるのですが、いやぁ、素晴らしかったです。
おそらく、原題からはやや意訳しているかと思われる邦題は、イマイチですが。


まず、その、あまり凝ったことや奇をてらったことをしてこない演出と映像がいいですね。
とくに、画に関しては、ホントに“写実的”に、風景や、俳優たちの表情や、彼らが立っている部屋や空間を切り取っていくだけ、という、これがホントにいいんですよ。

演出もシンプルに徹していて、例えば、主人公が「空を飛んでいる」ところを夢想すれば、実際にカメラが空を飛ぶ(空撮)、という。ベタなんです。タイミングもそうだし、使い方も。でも、いい、と。

で、この、空撮の画も素晴らしいんです。山をかすめ、谷を駆け抜け、丘を越えるとそこは海岸(砂浜)で、そこを、1人の女性が歩いている、という。

スペイン(おそらく、カタルーニャ)の美しい山河(と、海)があっての映像なんでしょうけど。
まぁ、でも、地球上のどこへ行っても、この種の、山や野や川や渓谷や海を撮った映像っていうのは、美しいんですけどね。
でも、それを使う、という選択と、その意図は、なんといっても監督のモノですからね、あくまで。なので、それは賞賛されるべきでしょう。と、俺は思いまっす。


物語に戻りますが、その、舞台となるのは、とにかく美しい大地と海と空なんですが、しかし、自然と生命を愛する男ならば、というか、愛すれば愛するほど、その美しい自然と美しい女性たちの存在というのは、“生への絶望”を深めてしまう、ということなんでしょうか。それが慰めくれる、ということでは決してなく。
恐らく、そういうことなんでしょう。
「自由が代償の人生なんて人生じゃない」と叫ぶ主人公にとって、“死を選ぶ”ことは、最後の自由なのだ、と。

その、“死に行く存在”として、もう1人登場する、“別の病人”との対比。
主人公の意思に寄り添い、支援活動をしながらも、同時に生(と、性を)謳歌する若いカップルとの対比。

彼の生活を最後まで支えた、兄とその家族の生活感、生活実感、そこに根ざす素朴な生命への倫理、弟の命に対する素朴な責任感、そして、その意味では独善的でもある、彼の“尊厳死への意思”と兄たちとの衝突。
その衝突の柔かさ、優しさ。
彼の意思を尊重もしたい彼ら家族の、優しさと葛藤も、シンプルに、しかし逃げずに描かれていますしね。


そして、これはややステロタイプですが、「生への義務」を説く“神父”が登場します。彼との“対決”が、いい。これもシンプルに、ですが、神父を喝破し追い返してしまう主人公。そして、義姉の、神父への反論。
そう。“神父”に家族など居ないのに家族の愛を語るな、と。それは、義姉を映す構図の中に、ごくごく自然に入り込んでいる、兄の表情が訴えてもいるんですね。


尊厳死への賛否は、まぁ、これは俺の中でも、実は判断しかねていることではあるのですが、しかし、それを抜きにしても、ヒューマンドラマ、人間賛歌、自由への賛歌、“意思”への敬意、葛藤することの意味、その葛藤の存在そのものも価値、そういう諸々を描くことには完全に成功している、素晴らしい作品だと思います。

はい。そういうことで、これはホントにお薦め。是非どうぞ。


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