2008年5月7日水曜日

「秘密と嘘」を観る

名手マイク・リーのカンヌ受賞作「秘密と嘘」を観る。


正直、この作品のような“弱い人”を描くストーリーって、苦手でして。
イライラしちゃったりするんですよね。ダメッぷりを見せられつづけると。

しかしまぁ、当然なんですが、そここそが、この作品の肝なワケですから。



とにかく、ラスト30分で一気に受け手の感情を持っていく、という作品。
「俺が一番愛してる3人がお互い憎み合うなんてどうかしてる」という弟の叫び。
“秘密”も“嘘”も、全部打ち明けろ、と。


ポイントは、“知的”であることと“勇気がある”ということが一致している、という所。
前半部分でも、この“知的である”と“あんまり知的でない”ことの対比が、ワリとしつこく描かれてまして。
その、「自分で自分を縛りつけている」という状況を描いているんですね。
で、最後にそれを「振りほどけ」と言ってるワケです。



愚かゆえに嘘をつき、嘘が目を曇らせ、また嘘をかさねないといけなくなり、その繰り返しで、自分自身をドンドン縛っていってしまう、と。
結果、失うのは、“愛情”であり“信頼”であり。つまりポジティヴな諸々が、嘘と秘密のせいで、段々遠ざかっていく、と。


ま、今さらここに書くようなことでもないことですけどね。ある種の“真理”ですからね。
誰もが、経験的に分かってることで。
でも、だからこそ、こんなに地味で(低予算で)静かな映画でも、深い共感があるのだ、と。


それをいかに丁寧に描くか。と、そういう作品です。


マイク・リーは、とにかくリアリズムの人だ、なんて言われますが、それがどこにあるかというと、それは、セリフがないショットなんですね。
言葉で書くと、「間」。
喋らないシーンの、役者さんの表情と、仕草。
とにかく、この“間”で、表現に説得力を出していく、という。

セリフの少なさとは対照的に、画の作りは、テレビ的というか。
ワリと寄りの画が多くて、いかにも映画的な、引きの画とか、そこに色んな情緒や後景を入れる、みたいなことは殆どないという感じ。
なんか、潔さすら感じるぐらいですね。
ま、シンプルだからって、真似しても、なかなか出来ないんでしょうけど。そういう、雰囲気のある画です。



というワケで、乾いたタッチで、人間の優しさと愚かさと救いを描く、名作でした。


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