2009年4月21日火曜日

「ハッスル&フロウ」を観る

ノースターかと思いきや、実はかなり豪華キャストな、「ハッスル&フロウ」を観る。

エンドクレジットでプロデューサーにジョン・シングルトンの名前を見つけて、ちょっとビックリ。
もちろん、納得ではあるんだけどね。
ちょっと、久しぶりだな、なんて。


で。
作品ですが。
思ったより“名作”だな、と。

「8mile」の成功に続いて製作された、ということだと思うんだけど、いわゆるヒップホップ・ムーヴィーというジャンルの中でも、徹底的にハードなシチュエーションを描く、という。
ま、フッド・ムーヴィーというヤツですね。


印象的だったのが、やっぱり、娼婦たちの語る独白ですよねぇ。
職業の貴賎はない、という建前はともかく、やはり“最底辺”の人間ではある彼女たちの、「これじゃない何か」を求める叫び、というのは、凄い良かった。

それから、主人公の惨めな生活を描写していくシークエンスで、ピンプ(ポン引き、というヤツです)の主人公に対して「自分でやりな」と。
結果的に、「自分の才能で稼ぐ」という方向に人生の舵を切るワケですね。
この辺の話の運びは、凄い上手いです。


こういう、低予算で作られた、“アンダーグラウンド”な世界を扱う作品でも、こういう“話の運び”という部分では、ハリウッド・メソッドというか、きっちりツボを抑えたストーリーテリングをしていく、という、ま、アメリカならではとも言えるんですが、上手だな、と。


それからやっぱり、黒人だけの物語にしていないトコも、奥行きを与えていますよね。ホワイト・トラッシュという、ま、娼婦と、ミュージシャンの白人と。

黒人も、ワリと中流な暮らしをしている女房持ちのミュージシャンが出てきたり。




あとは、舞台の設定。
NYやLAといった大都市じゃなく(ちなみに、「8mile」の舞台はデトロイト)、南部の中都市メンフィスの、しかもすげー田舎の町が舞台で。
つまり主人公は「カントリー・ピンプ」。文字通り、アメリカ社会の掃き溜めを描く、という。
換気扇だったり、クーラーすらない車だったり。貧乏人相手の売春稼業だったり(モーテル代すら払えない)。
そういう町での、惨めな暮らし。
そして、ストーリーの最後でホンの少しだけ提示される希望。
そして、この希望の描き方も上手い。本人は塀の中で臭い飯を喰ってるにも関わらず、そこの看守たちから、デモテープを“託される”という。
この、立場の逆転劇、というは、要するに「気持ちの持ち方なんだ」ということを最後に掲げているワケですよね。


う~ん。

でも、この作品の良さって、そういうトコじゃないんだよなぁ~。


あまり派手なことをしてないんですよ。
それが良い。
クラブでステージに上がって観客を盛り上げる、とか、そういうのがない。
低予算っていうのもあるんだろうけど、でも、そういう演出に頼らない、という背骨みたいなのも感じるし。
銃撃戦とか、ないしね。性的な描写で売る、というのでもないし。


あとは、ミュージシャンとしての「生みの苦しみ」みたいなシークエンスも、凄い良かったです。
くちゃくちゃの顔をした奥さんを連れてきて、歌わせたりして。
その、共同作業自体が、彼らをポジティヴにしていくのだ、という。
そこに夢があるから、というだけじゃないですよね。共同で作業する、という行為自体が物凄い創造的行為で、創造的な行為は、人間を人間的たらしめる、というか。
それは、売春稼業に身をやつしている彼らにとっては、人間性の回復(あるいは、獲得)ということでもあって。


うん。
とにかく、いい作品でした。



そして、低予算っぷりは、勉強にもなったし。
そういう作品でした。
個人的には、名作ですね。



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