2009年6月5日金曜日
「逃亡地帯」を観る
またしても午後のロードショーで(今週は全部観ちった!)、アーサー・ペン監督の「逃亡地帯」を観る。
いやぁ、傑作。
これはぶっちゃけ、DVDを買いたいです。手元に置いておいて、また観直したい。
群像劇ってことで、主演はネームバリューから言ってマーロン・ブランドってことだと思うんですけど、逃亡犯役のロバート・レッドフォードも輝きを放ってるし、ジェーン・フォンダも出てるし、ということで、いま観ると何気にオールスターって感じ。
この作品は1966年に公開、ということで、アーサー師は翌年に、“ボニーとクライド”の逃避行劇「俺たちに明日はない」を、レッドフォードは3年後に、マーロン・ブランドではなくポール・ニューマンと組んで「明日に向かって撃て」で、国外逃亡を果たす、という。
(ちなみに、ジェーンの弟のピーターの「イージー・ライダー」も、この3年後の作品)
個人的には、「俺たちに~」と対になってる作品なのかなぁ、という感じ。
ボニーとクライドという、逃亡犯を描くのが「俺たちに~」なワケですが、この作品では、その逃亡犯側の内面(というか、動機とか個人史というか、要するに、キャラクターを深く掘り下げて描く、ということ)が殆ど語られてなくって、いわゆる“状況証拠”だけ、という感じで。
「ツイてなかったんだよ。俺の人生は」ってことぐらいしか本人も語りませんし。
この作品は、レッドフォードの脱獄犯が目指すホームタウン(故郷の小さな町)に、まるで遠隔操作のように引きこしてしまう“波風”を描いていて、ま、裏表になってる、ということですね。
で。作品の年代史的なポジションの話はこのくらいにして、作品本体の感想を。
まず、レッドフォードがひたすら逃げる姿と、それとは全然オーバーラップしないで、彼をのちに“迎え入れる”町の様子を描く、前半部分が凄い。
この町の様子っていうのが結構エグくて、退廃的なカントリータウン、という感じで、まぁ、現代性がある、と言うと言い方が変ですが、要するに“人間は全然変わってない”ってことなんですけど、そんな気持ちにもさせるエグ味があります。
まぁ、その、後世に語りかける、というのはアーサー師の意図するところではなくって、これは、逃げ続ける(ちなみに、ここでは直接的な追っ手の姿は描写されません。なので、レッドフォードは“見えない敵”から逃げているように見えます)レッドフォードの姿との対比が行われている、と。
退廃的な、自己満足的な、閉塞的な、そして閉鎖的な、町の様子と、その町の“アッパークラス”の生活用の様子、そしてアッパークラスの生活に嫉妬する“その下の階層”の愚痴も描かれ、そこにさらに、人種差別も描かれていて。
要するに、腐り切ってるワケですね。
で、脱獄犯のニュースによって、その“腐ってる部分”が炙り出されてくる、という。
この感じは、ホントにキケン。
銀行に美人の奥さんがやってきて、それは旦那が銀行に勤めてるからなんだけど、実は旦那の同僚と堂々と不倫してる関係でもあって、なんていうか、そういう“薄汚さ”というか、“腐ってる人間”を描く、と。真正面から。
ジェーン・フォンダには恋人がいて、彼は地元で一番の富豪で名士(銀行の頭取でもあるんだけど)のジュニアで、後継者として育てられているんだけど、彼にも妻がいて。
その妻とは、“契約を結んでいる”上っ面の仮面夫婦で、そういうことに気付いてないのは、親父の富豪だけで、とか。
その中に、保安官として、マーロン・ブランドがいるんですね。
アメリカの司法機関の中で、この保安官制度っていうのは少し面白くって(というより、日本にはない独特のシステムで)、要するに、かなり独立した存在だ、ということなんですね。
“自分の城”を構えている感じ。
あまり「組織の人間」ってことを感じさせない存在にしてて、で、それがこの作品では欠かせない要素になってて。
つまり、極めてインディペンデントな存在として描かれている。
また、マーロン・ブランドがハマってるんですよね。これが。
堂々と黒人を庇う、とか、自分なりの“正義”の論理、倫理観、基準でもって、脱獄犯とも向かい合おうとする、とか、そういう人物。
しかもその結果、いわゆる“町の人間”たちに私刑(リンチ)をくらったりしてしまう、という。
このエグ味!
デヴィッド・フィンチャーとかブライアン・シンガーとかにリメイクして欲しいっス。現代に置き換えて。
全然成立しちゃうでしょう。
人間の暗部なんて、全然変わってないのだ、ということで。
そして、衝撃のラスト。
これはホントにびっくり。
あ、あと、セリフがクールだったなぁ。
「店に戻って、ウィスキーをもっと飲んで、他人の女房と寝ろよ」
「今言ったことですよ。あなたは恩恵を押し付けて、感謝されることを強要している」
「俺が真実とか正義とかいうやつを信じてると思うのか」
などなど。
もちろん、訳語の関係もあるんでしょうけどね。
うん。
是非とも、もう一度観たい作品です。
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