2012年6月26日火曜日

「預言者」を観た

新宿から京王線に乗って行った下高井戸シネマで、「預言者」を観た。

面白かったです。
フランスで作られた作品で、知らなかったんですけど、カンヌ獲ってる作品だったんですねぇ。道理で、パワフルなハズです。


内容は、刑務所の中で、フランス語の読み書きもできない若者(移民の子ども、なんだけど、孤児でもあって、教育を受けられないまま育った。)が、一人前の“悪党”としてのし上がっていく、と同時にその過程で、悪党としてだけでなく、人間としての“尊厳”みたいなのも獲得していく、という、いわゆるピカレスク・ロマンというヤツですね。
ノワールと言えばそうですが、個人的には「ピカレスク・ロマン」という言葉を使いたい作品です。

まぁ、好きです。こういう作品は。


ただ、1つだけ分からなかった、というより、腑に落ちなかったのは、「預言者」というタイトル(原題は、英語で言うと「a prophet」ってことで、特に意訳をしたりムリに付けた邦題、というワケでもありません。)と、その言葉が示唆するあるエピソードなんですけど・・・。

なんか、聖書とか神学的に、こういうエピソードがあって、そこから引用している、とか、そういうことなんですかねぇ?

タイトルに掲げているぐらいですから、大事なアレなハズなんですけど、どうもそこが腑に落ちないままなんですよねぇ。


だいたい、作品を観る前は、タイトルと、刑務所の中で云々という設定から、てっきり「1人の服役囚が回心して~」みたいな、宗教的な話なのかなぁ、なんて思ってたぐらいなんですけど、ところがどっこい、期待に反して、これまた自分の好きなタイプの話だったんで、意外な形で裏切られた、ぐらいの感じで。


まぁ、預言者と予言者は違うワケで、ここも難しいトコなんですけど。


これねぇ。
別に、次々と「予言を的中させていく」ワケじゃないんですよ。
そのくせ、「鹿の飛び出し注意」という、物凄いピンポイントで“未来”を当てるんですね。

ここが良く分かんない。



別に、その、なんていうか、「人生の指針を教えてくれる」みたいな形態でもいいと思うんですよねぇ。
実際に、そういう“メンター”って、いると思うし、ストーリーとして語る価値がある存在だと思うし。

そういう話でもいいと思うし、そういうストーリーだったとしても、この作品の映像の力に十分拮抗するだけの物語を構築できたと思うんですよねぇ。
もちろん、タイトルは変える必要はあるけど。


まぁ、そこをグチグチ言ってもしょうがいないんで、とりあえず、さておき。




とにかく、俳優陣の存在感が凄いですね。
重厚。
とにかく。

暑苦しいぐらい。
男ばっかりだし、アップも多用するし、だいたい、その男ばっかりって状況に加えて、みんな顔が汚いワケですよ。刑務所の中なんで、みんなヒゲ面だし、人相も悪いし。
ま、服役囚たちの話なワケで、当然っちゃ当然なんですが、とりあえず、そこから逃げない、という、そこが素晴らしいですよね。

刑務所の外に出て行くシークエンスもあるんですけど、“外の世界”でも、そういう部分ではまったく逃げずに、刑務所の外にも、塀の中の世界が(彼らにとっては)完全に地続きであるんだ、ということを描いたりして。
(しかし、フランスの司法制度には、一時出所というシステムがあるんですねぇ。仮出所とは違う感じなんで、不思議っちゃ不思議な制度です。)

あと、フランスの“政治犯”なんですね。思想犯、というか。
コルシカ島に、フランスからの独立を掲げるテロ組織っていうのがあって、というトピックが背景にあるワケですけど、この独立運動(と、テロ行為)については、この作品で初めて知りました。

刑務所の中での、アラブ系とコルシカの男たちとの対立の構図とか、とても巧く描かれていて、刺激的、というか、画面に緊張感を付与していますよね。

2つのマイノリティが、お互いを削り合う、というか。
火花を散らす、という感じじゃないワケですよね。お互いに、神経をすり減らし合う。そういう日常。その両方に出入りする主人公と、ジプシー(ロマ)という出自から、どちらにも所属しない(することのできない)主人公の相棒。

看守たちとの関係。

コルシカ軍団のボスとの、擬似的な父子関係。父の庇護を受け、その使い走りをしながら、力を蓄えていく。
自分のビジネスも始め、“ファミリー”を構える。
そして最後に、それはまるで予定調和ではあるものの、描写の鋭さによってそう感じさせない、「父殺し」の物語。

いいですよねぇ。

ラストシーンの、あの感じなんか、堪りません。



いい作品です。ホントに。



ただ、惜しむらくは、要するに「預言者って?」と。



少なくとも俺には、良く分からん、と。。。



なんかなー。。。
キリスト教的な素養、というか、文化的なバックボーンというか、そういうのが必要なんかねぇ。。。



しかしながら、それを差し引いても、良く作品でした。
わざわざ下高井戸まで足を伸ばした甲斐がありました。


うん。













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